「ソ連はファインマンの分だけアメリカに負けている」
私が子供のころは、学校の先生がソ連のことをロシアと言おうものなら、ああ、年寄りと思ったが、今だと、ロシアのことをソ連と口走ってしまったら、年寄りと思われるんだろうなあ。
タイトルの「ソ連はファインマンの分だけアメリカに負けている」というのは、私の記憶違いでなければ、大学3年のときに「電磁波論」の講義で佐藤先生*1 から聞いたことだ。
もう少し正確には、ランダウ=リフシッツ理論物理学教程*2 を書いているランダウが、そう言ったというのだ。
- 作者: エリ・ランダウ,イェ・エム・リフシッツ,広重徹,水戸巌
- 出版社/メーカー: 東京図書
- 発売日: 1986/04
- メディア: 単行本
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佐藤先生いわく、『ファインマン物理学』の分だけ負けていると言ったのではないかということだった。
先生は学生時代に 『ファインマン物理学』を読んで、「こんなに面白いなら…」ということで物理学者になったというようなことを言っていた。この教科書がどれほど多くの人間に影響を与えたか、いつもはやや皮肉っぽく話すのだが、そのときは相対的に熱く語っていた。一番熱く語っていたと覚えているのは、ファインマンについて「朝アイデアを出して、夕方にダメになったら、そらならこれではどうか、それがダメなら、ではこれならどうか、その回転がものすごく早いんですねえ」と心底感心しているところだった。
完全にファインマンの信者だった。
同級生にもファインマンのファンはいて、ファインマンの本は全部買っている、と言っていた。
私はといえば、最も親しみを感じる物理学者だ。そして、やはり人生で大きな影響をうけた。中でも『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉』のさらに「お偉いプロフェッサー」のところは、ここばかり何度も読み返している。話にまとまりはなく、いろいろなエピソードが時系列にしたがって流れていくのだが、それが逆に良い。
今の仕事を選んだのも、ここを読んで吹っ切れたから。当時の私は、自分で敷いたレールにがんじがらめになっていて、つらかった。お気に入りのこの箇所を何度めかに読み返したとき、自分の内なる声に従おうと思った。周りからは「お前、大学院まで出てバカじゃないのか?」「いやあ、その業界はこれからはないでしょう」と少なくとも賛成してくれるヒトは一人もいなかったと思うが。
今日のように、4月1日以来、やっと丸一日休める日、さぞかしやりたいことが出来そうな気がするが、そうでもない。4月1日の休みを堪能したときは、「充電完了。もうしばらく休みがなくてもいい」と思っていたが、さすがに2週間を過ぎて休みがないときつい。今日という日をあと2日、あと1日とめずらしく渇望した。しかし、こんな日は意外と充実しないんだなあ。時間がたっぷりあると、それを活用できない皮肉。
「お偉いプロフェッサー」の冒頭は、そのためのヒント。
1940年代プリンストンにいたころ、高等学術研究所に来ていた偉大な頭脳の大家たちに起こったことを、僕はこの目で見ているのだ。(大胆に中略)やりたいことは何でもできる環境を与えられていながら、何もアイデアが浮かばない。(中略)
なぜ生まれてこないかというと、それは実際の活動やチャレンジが足りないからだ。実験をする人との接触もなく、学生たちの質問にどう答えようかと、考えることもない。だから何も生まれてこないのだ。
というわけで、雨もいったんやんだようだし、街に出よう。
「お偉いプロフェッサー」の項目だけであと2,3書きたいことあるよ。
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
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